取組方針

取組の基本的な考え方

民俗芸能に携わる多くの方々に共通する姿は、先祖代々受け継いできた伝統ある芸能を守っていかなければいけない責任や重みを感じつつも、その一角を担っていることに誇りを持ち、また、舞うこと、演ずること、参加することに悦びを感じ、何より愉しんでいる点です。正にこれが民俗芸能の“醍醐味”であり、“真の価値”であると考えます。

ともすると民俗芸能の継承を語るとき、我々は責任あるいは義務といった負担感をあおるばかりの議論に陥ってしまってはいないでしょうか。負の印象が先行すれば、多くの方々に民俗芸能の本質や魅力を理解いただく前にその機会をみすみす削いでしまうこととなり、結果として、新たな担い手の確保は遠のいてしまいます。

地域住民は地元芸能の“真の価値”をどの程度理解しているでしょうか。これまで、地域住民に“醍醐味”を伝える我々の努力は十分であったでしょうか。この問に自信を持って「はい」と答えられる状況にはないでしょう。

そこで協議会として“貴重な資産”である民俗芸能を将来に継承していくための基本的な考え方は、民俗芸能の“醍醐味”を“真の価値”として内外に広く伝え、理解者を増やし、共に感じ響き合うことで共感(響感)の輪を広げていくことであると考えます。

民俗芸能継承のための基本的な考え方

「醍醐味(真の価値)の普及と共感(響感)の輪の拡大」

方向性及び必要となる取組

前述の基本的な考え方を活動の基軸としながら、これを推進するため南信州が一丸となって推進する対策を方向性1~9として取りまとめ、その性質から4つの体系に分類しました。広く情報発信や継承意識の醸成を図りながら、人材の確保・育成、外部支援の受入などの具体的な取組を進めていく必要があると考えます。

なお、9つの方向性ごとに現状・課題、それに対して必要となる取組を整理し、その中で協議会主体による当面の間の重点的推進項目を重点項目として位置づけました。

推進すべき9つの方向性

【情報発信・継承意識の醸成】

方向性1 効果的・積極的な情報発信、啓発活動の展開

《現状・課題》

基本的な考え方に掲げる「醍醐味(真の価値)の普及と共感(響感)の輪の拡大」を推進するには、まず効果的、積極的な情報発信が欠かせません。これまで、市町村や観光協会などがそれぞれの立場で、祭りや公演の日時、その歴史や謂れ等をパンフレット、チラシ、ホームページ等により来訪者向けに情報提供してきましたが、その対応には濃淡があり、必要な情報が適時的確に提供されていない状況なども見受けられ、全体としてその魅力を十分に伝え切るには至っていません。南信州の民俗芸能の情報を一元的に管理し、その魅力について機を捉えて広く発信するとともに、その継承の危機を伝える取組が求められます。

《必要となる取組》

【ウェブサイトの開設】 重点項目
まず求められるのは、南信州の民俗芸能の情報を一元的に発信するポータル機能であり、何よりまず協議会が運営するウェブサイトの整備が必要不可欠です。このウェブサイトは、閲覧者が南信州の民俗芸能に“初めて出会う場”であり、基本的な考え方とする“醍醐味(真の価値)の普及と共感(響感)を育む場”です。そのためには、そこに携わる者の“誇り、想い、悦び、愉しみ”を大きく取り上げると共に、その継承の意味を広く知っていただくための情報掲載が求められます。合わせて、閲覧者がここへアクセスすれば南信州の民俗芸能の情報を全て取得できるというデータベース機能のほか、各種情報へのリンク、SNSや動画配信などのソーシャルメディアと連携した機能を整えることが重要です。各地の民俗芸能ファン、研究者、出身者等に加えて、その背後に広がる人的ネットワークも見据えて情報の拡散を図る取組が求められます。さらに、このウェブサイトを中核に据えた上で、メールマガジンや協議会報の発行など、様々な情報発信の取組を併せて展開していくことも有効と考えます。

【キャッチフレーズ、シンボルマークの決定・活用】 重点項目
協議会の活動を南信州全体の取組として広く認知していただくには、キャッチフレーズ・シンボルマーク・キャラクターなどの活用によるイメージ戦略も重要です。協議会主催の各種事業をはじめ、関係者が日頃から広く活用することで、少しでも多くの皆さんの目に触れる機会を創出し、活動を知っていただくことが必要です。キャッチフレーズ等の選定・決定にあたっては、その過程も協議会活動の普及の場とするよう、子ども達を含めてアイデアを公募するなどの手法を取り入れることも一案です。

【記念日の制定、取組月間の設定】
民俗芸能の継承意識の高揚を図るには日々の取組も大事ですが、効果的に行うには、時期や日を決めて集中的に啓発活動を展開することも必要です。そのため、「南信州民俗芸能継承デー」や「南信州民俗芸能継承月間」(いずれも仮称)等を設定し、集中的に催事や啓発活動を展開することも有効です。

方向性2 継承意識の醸成の場・発表機会等の提供

《現状・課題》

今回、民俗芸能に関係する当事者が一堂に集まるため協議会が設立され、参画者の間では継承の取組に一定の理解が深まるものと期待されますが、それを内部に留めることなく南信州全体、さらにはその周辺部を含め広く住民を巻き込んだ取組として展開を図るために、地域全体の継承意識と継承者のやりがいの高揚が重要であり、それを創出する場の提供が必要です。

《必要となる取組》

【イベント等による継承意識の醸成とやりがい創出】 重点項目
協議会活動の紹介、民俗芸能の継承を主題とする記念講演やパネルディスカッション等で構成するシンポジウムを、協議会主催により毎年1回以上開催することにより、地域の継承意識の醸成・高揚を図ります。前述した継承月間の催事として開催することも有効であると考えます。併せて、民俗芸能の当事者からは「観てくれる人が多いとやりがいに繋がる」との意見も多く、芸能団体の皆さんのやりがいを高めるためには、地域内外の方々に広く観覧いただく場を提供することも必要です。協議会主催による定期的な芸能披露の場を設けるほか、普段交流することの少ない芸能団体同士の交流や意見交換の場を創出し、課題共有の場としていくことも有意義であると考えます。また、民俗芸能に関連する既存の各種催しと連携した取組も効果的です。

平成27年度試行「南信州民俗芸能継承フォーラム」

意識醸成とやりがい創出のため「南信州民俗芸能継承フォーラム」を試行実施しました。試行結果の検証を行い、28年度以降の事業展開に反映します。

日 時:
平成28年2月21日(日)

場 所:
飯田市鼎文化センター

テーマ:
~南信州の宝「民俗芸能」を未来に継承するために~

内 容:
アドバイザーによる記念講演
協議会の活動報告と本取組方針の発表、竜峡中学校今田人形座及び阿南高等学校郷土芸能同好会による芸能発表、パネルディスカッションなど

【人材の確保・育成】

方向性3 子どもの体験促進・体験機会の提供

《現状・課題》

先進事例の研究の結果、子どもの頃の体験が将来の担い手に繋がっている多くの事例が確認されました。こういった子どもの体験機会をできるだけ多く提供していくことが将来への継承の大きな力になるものと確信します。一方で、高等学校入学を機に、体験できる環境はほとんど無くなってしまう状況も確認され、高校生以上に継続して体験してもらう機会の創出が求められます。

《必要となる取組》

【子どもの芸能体験・参加機会の創出】 重点項目
まず、これまで子ども参加の取組の無い市町村や地区等においては、先進事例を参考に地元教育委員会や小・中学校との連携により、新たな仕組を検討していくことが必要です。既に一定の活動実績がある場合も、他地区の成功例を参考に拡充を図っていくことが求められます。協議会としては、各市町村や地区等の取組を後方支援するとともに、これとは別により広範囲の子どもたちの体験促進を図るため「民俗芸能子ども体験会」の開催を進めます。毎回、個別の団体に参加いただきながら年複数回開催し、地元に民俗芸能やその体験機会がない子ども達にも多く参加してもらうことで地元はもちろん将来の居所における芸能参加に繋がっていくものと考えます。これら体験機会の提供に当たっては、子ども達に如何に民俗芸能を印象づけ、その後の参加の動機付けができるかが重要です。大人から演じる“愉しさ”や“悦び”を伝達し、民俗芸能は“かっこいい”、“自分もやりたい”と思ってもらうための工夫が必要になるでしょう。民俗芸能に参加し演ずることが子ども達の“憧れ”となるような取組ができるかが重要な点となります。併せて、子どもの行事には必ず保護者が同伴します。子どもと共に、これまで民俗芸能に接点の無い親の世代に働きかけ、親子で巻き込んでいく視点も求められます。

【高校生の芸能体験の推進】 重点項目
中学校の卒業後の体験機会の激減に対しては、協議会としてまず、立ち上がったばかりの阿南高等学校郷土芸能同好会の活動を支援し、多くの高校生や若い世代の目に触れるよう発表の機会を提供して行くことが求められます。今後、協議会が主催する様々な催しでも、積極的に出演していただくとともに、一般の高校生を集めた催し等も検討していくこととします。また、長野県教育委員会はこの度「生まれ育った地域を理解し、ふるさとに誇りと愛情を持ち、地域を大切にする心を育む“信州学”の県立高等学校への導入」を打ち出しました。南信州の民俗芸能は、地域を学ぶための絶好の素材です。平成30年度に長野県で開催される全国高等学校総合文化祭も見据え、協議会として県教育委員会や各高等学校に対し、南信州の民俗芸能を“信州学”に位置づけた事業展開を呼びかけ、多くの高校生が民俗芸能を学べる環境をつくっていくことも重要です。

方向性4 青壮年層への働きかけ

《現状・課題》

当地域の10代後半から30代にかけての青壮年層の比率は極端に低い状況にあります。高等学校卒業後、進学や就職により多くが地元を離れてしまうこと、加えて、大学や専門学校等を卒業しても、地元に帰る者が少ないことが原因として挙げられます。一方で、この世代の民俗芸能への参加が無ければ、継承への不安が付きまとうことになり、如何に青壮年層の参加を担保していくかが大きな課題です。

《必要となる取組》

【若年層への呼びかけ・働きかけ】
この世代の若者が民俗芸能に多く参加することが適えば、民俗芸能の継承は明るいものとなりますが、地元に該当者がいない事例では、手紙やメール、SNSなどを活用した呼びかけで転出者と地元とを繋ぎとめる取組が必要です。奇しくも東日本大震災を契機に若者の価値観に変化が生まれ、ふるさとや人との繋がりを大切にする意識が強まったと言われています。民間政策研究機関による“消滅可能性自治体”などという衝撃的な分析も発表される中、ふるさとの文化や生活を守りたいと考える若者は相当数いると考えます。各市町村や地区等には、高等学校卒業時、盆・正月等の帰省時、成人式開催時などの節目において、若者に対して民俗芸能の“醍醐味”と、地元が求めている“必要な人材”であることを伝える地道な取組が求められます。この呼びかけは転出者に限らず、もちろん地元に残る若者に対しても有効です。協議会には、そのための呼びかけ方法の提供など必要に応じた支援が求められます。

【若年層の育成】
併せて貴重な担い手である若者に、先祖代々受け継がれた風習や技術を伝達していくことも大変重要です。地元を離れている若者であれば、なおさらにそれを学ぶ時間に限りがあるため、横尾歌舞伎の事例のように若年層を3年で育成するしくみ(P13)などを参考に、計画的な育成を図ることも必要です。

方向性5 次世代を担うリーダーの育成

《現状・課題》

多くの芸能における保存会や地区の継承活動の中心には、必ず強い信念のもと熱意を持って伝承に取り組むリーダーが存在しています。継承にはこのリーダーの存在が不可欠であり、高齢化が進むリーダーに万が一のことがあれば、これが致命的となり、継承が途切れてしまうことも十分想像されます。将来に渡り継承を実現していくには、常に次の世代のリーダーを見据えた育成が求められます。

《必要となる取組》

【各地区等における次世代のリーダーの育成】
各地区等では、将来の継承を確実なものとするために、青壮年層の育成の延長線として、現リーダーには日頃から次のリーダー候補を予め想定あるいは指名した上で、自らの技能等を伝授し、リーダーとして育成していくことが求められます。本協議会の会議や行事などにもこれら次世代のリーダーの積極的な参加を促し、他の団体との関係構築を図るなどの取組も有効であると考えます。協議会として、現リーダーの参加ばかりでなく、次世代のリーダーを育成するための会議や講習会を企画し、次世代リーダー間の相互の交流を図ることも必要です。

【地域全体の芸能に精通する専門家の養成】
協議会の活動をより骨太なものとしていくためには、将来的に地域全体の芸能に精通する専門家を増やしていくことが必要です。個別の芸能に限らず、より広い視点で地域の民俗芸能を見渡すことができる人材を育成するため、協議会と飯田市美術博物館等が連携し、各種講座を開講していくことも求められます。

【外部支援の受入】

方向性6 地区外人材の活用・受入の促進

《現状・課題》

担い手不足の大きな要因は、地域の若者が減り、地元に人材がいないことです。地元に人材がいない状況下において、芸能を継承していくためには、地区外の力を借りることも選択肢の一つです。前章に掲載した事例においても、外部支援を受け入れている取組は多くあり、各地区の実情に応じて導入して行けば有効な手段であると考えます。新たな人材を発掘し、現地にいざない、交流を図ることで、新たな担い手確保に繋がれば、継承の大きな力となります。

《必要となる取組》(1)新たな担い手の掘り起こし

【出身者等への働きかけ】 重点項目
民俗芸能は、単なる芸能である以上に、その風土と日常に根ざした生活文化であり、地域生活と一体となって活きるものです。一義的には地域に縁のある者が担っていくことが理想であり、部外者が参加することに抵抗がある地区もあります。そういう意味で、まずは出身者、血縁者、地縁者への呼びかけが有力な手段であると考えられます。今後、各市町村や地区等において出身者等への情報発信と協力要請を精力的に展開することが求められます。協議会としては、これらの人材発掘のため都市部において、特定の民俗芸能を取り上げ「民俗芸能体感・講習会」を開催し、出身者等を中心にその“醍醐味”と継承の“危機”を伝える活動を展開します。年間複数回開催し、都市部で生活する縁者に、いま一度地元を見つめ直し、その文化継承に協力いただくきっかけとしていきます。併せて、フィールドスタディで南信州を訪れたり、南信州の民俗芸能を履修科目として設定したりする大学等にも呼びかけ、当地域の文化に興味ある学生などを現地にいざない、実際に芸能体験してもらう取組も進めます。

【公募による担い手募集】
一方で、担い手を外に求める手段として、先進事例で紹介した飯田市上村中郷地区(P15)のように、新たな舞手を公募し一定の成果が出ている地区もあります。多くはいないものの希望者は確実に存在しており、公募により広く担い手を求める手法も、各地区等の状況に応じて取り入れていくことも有効です。

平成27年度試行「南信州民俗芸能体感・講習会」

天龍村坂部地区に縁のある方々を中心に「坂部の冬祭り」を改めて体感していただき、その“醍醐味”を再認識いただくとともに、継承の危機を伝達し、継承のための支援を求める場として試行開催しました。南信州の神楽をイメージした食事も味わっていただき、参加された多くの皆さんが貴重な文化を継承する必要性を再認識いただくことができました。本事業を継続して実施していくことが必要であると考えます。

日 時:
平成28年2月13日(土)

場 所:
銀座NAGANO(東京都中央区)

テーマ:
天龍村坂部の豊かな伝統文化を味わう

内 容:
坂部の冬祭りの講習会、交流会

《必要となる取組》(2)外部支援体制の構築

【南信州民俗芸能応援隊(仮称)の設置】 重点項目
多くの芸能が神事として行われてきたものであり、そもそも地区外の者が行う類の行事ではありません。そのため、地区によっては外からの支援の受入には抵抗感が大きいものと思われ、地域外の者が始めから神事に関わることは困難であることは明白です。一方で、芸能の講演や祭りを運営するには、準備から始まり、来訪者の接待、参加者の食事の用意、後片付けなど多くの裏方が必要になります。実際にはこういった付随業務の負担も大きく、外部支援者の役割は、まずはこれら裏方としての業務を担っていただくことだと考えます。これらの業務を通じて様々な場面での地元住民との交流に発展し、お互いの理解が深まればいずれこの中から担い手になる人材が生まれるかもしれません。協議会としては、これらの個人の支援者を組織化する各地区の取組を支援するほか、長野県が制度化を検討する企業支援を受け入れる形で、地域全体の組織を一本化し、必要に報じて要員を派遣する仕組の構築を目指します。

【外部芸能団体等との相互支援関係の構築】
その他、外部からの支援を組織的に受ける方法として、先進事例に紹介した愛知県東栄町御園地区の事例(P16)や天龍村大河内地区の事例(P15)のように、各市町村や地区等において外部の芸能団体(地区)や演劇団体と支援関係を構築していくことも有効であると考えます。

平成27年度試行「天龍村坂部地区応援団の設立」

本年度、天龍村の地域興し協力隊が呼びかける形で、坂部地区に縁のある外部の若者が集い、「坂部の冬祭り」を体験しながら運営を支援する応援団「SAKANBE」を立ち上げました。

初年度にもかかわらず18人もの若者が集まり、お練りに参加するほか、受付等の業務や食事の準備、来客の接待など裏方支援を行い、祭りの盛り上げに一役買いました。

《必要となる取組》(3)地区外支援者の滞在環境の整備

【滞在施設・仕組等の整備】
各市町村や地区等において、遠隔地から支援者を受け入れるにあたっては、その期間中に支援者が滞在する宿泊所が必要です。近隣に宿泊施設が所在する地域においては問題ありませんが、多くの場合その確保が課題です。新たに宿泊施設を営業することは現実的でないため、集会所等の解放や各地区に多くある空き家の活用、民泊の活用などによる対応が考えられます。例えば、空き家を利用しシェアハウスのような施設とすれば、民俗芸能の開催時に限らず地域を訪れる交流者の宿泊所として年間を通じた活用も可能となり、地域の大きな課題となっている空き家の有効活用で交流人口拡大に繋げることも期待できます。地区外支援者の受入を推進するにあたっては、併せて宿泊環境をどのように確保するかについて各市町村や地区等で十分検討することが求められます。

方向性7 企業等による協力体制の構築

《現状・課題》

民俗芸能を継承するための取組を、南信州一丸の取組として推進していくためには、広く一般に理解を広げていくことが必要であり、そのためには、広く企業の協力を得ていくことが不可欠です。平成28年8月に、下伊那地方事務所が各芸能団体等に対し現状の企業支援の受入状況を調査したところ、企業支援に対する期待がある一方で、実際にはほとんど支援を受けられていない状況が判明しました。民俗芸能の継承に、如何に企業支援を受け入れていくかが重要な点となります。

《必要となる取組》

【企業理解の促進・協力要請】 重点項目
現在の就業形態の状況を反映し、民俗芸能の参加者の多くは一般企業等の従業員です。芸能の講演や祭りの実施の際には、準備から片付けに至るまで一定の日数が必要となり、多くの参加者が休暇を取得しなければなりません。しかし、休暇が取れないために参加できない場合や、参加できても一部日程に限られてしまう場合が多く、そのために人材が不足している実態もあります。まずは協議会が経済団体や企業等に対して呼びかける形で、経営者や従業員の皆さんに、南信州の民俗芸能の“醍醐味”を再認識いただくとともに、参加者が休暇を取り易い環境を整えるなど、多くの企業に民俗芸能の継承に理解と協力を求める活動を推進することが求められます。なお、行政機関が、率先して職員の参加に取り組むことは言うまでもありません。

【南信州民俗芸能パートナー企業制度(仮称)による相互支援関係の構築】 重点項目
民俗芸能の継承に民間企業の支援を取り込むため、長野県が民俗芸能の継承活動に協力的な企業等を登録し、広く一般に周知する「南信州民俗芸能継承パートナー企業制度(仮称)」の構築を検討しています。協議会と個別企業等の間で支援協定を締結することで、県がその企業等を「パートナー企業」として登録するとともに、地域貢献企業として広く周知を図るものです。企業側も「パートナー企業」であることを広く告知でき、企業の社会貢献が社会的地位の高さとされる中で、一定の需要が見込めるものと考えます。協議会としてはこの制度と連携し、協議会活動への企業支援と参加を推進するとともに、各地区等からの要請に応じて個別地区とパートナー企業の支援関係構築を仲介するなどの役割が想定されます。

南信州民俗芸能パートナー企業制度(仮称)の考え方

【その他】

方向性8 記録の保存

《現状・課題》

民俗芸能は時代と共に変化するものであり、始まった当時のそのままの姿で現在も寸分違わず行われているものとは限りません。また、その変化は地域の歴史そのものの反映でもあり、その移り変わりの経過にも大きな意義があります。一方で、その儀式や立ち振る舞いや決まりごとには必ず意味が込められており、この真意を解さず上辺だけで所作のみを伝承してしまうと、世代を追うごとに芸能の真意が歪められたものに変化してしまう恐れがあります。こういった事態を防ぐには、芸能の歴史や謂れや様々な所作に至るまで、そこに込められた真意を含め現在の有様を映像や文章により克明に記録しておくことが大切です。

これら記録により民俗芸能の本質が明確にされれば継承者の誇りや意識の高揚にも繋がり、体外的にその真価や意義を伝えることも容易になります。また、新たな担い手を受け入れるにあたっても、その真義を伝える手段として活用できるほか、各種事情による変更を迫られた際にどこまでを許容するのかの判断基準とすることも可能です。現在、これらの記録が飯田市美術博物館を中心に進められつつありますが未だ未整備の場合が多く、継承の危機が迫る中、早急な記録保存が求められます。

《必要となる取組》

【現状等の詳細調査と記録の推進】 重点項目
南信州広域連合は、民俗芸能とそれを取り巻く民俗文化などの記録の整備事業を本格的にスタートさせました。まず第1弾として、平成27~28年度の2年間は、飯田市美術博物館と協力して「雪祭り」を伝承する阿南町新野地区を取り上げ、「雪祭り」や年中行事などの実態調査や聞き取り調査を行い文字(報告書)と映像(DVD)による記録に取り組みます。以後も順次、他地区の記録保存に継続して取り組む予定です。こういった記録が整備されることで、万が一ある地区の民俗芸能が途切れる事態に陥った場合にも、心ある住民らが将来復活を模索するための最低限の担保として望みを繋げることにもなります。また、先に述べた「醍醐味(真の価値)の普及と共感(響感)の拡大」を図るための様々な場面での有効な活用が可能となります。協議会としてこの記録事業に全面的に協力し、推進を図ります。

方向性9 さらに検討すべき事項

《現状・課題》

協議会活動を将来にわたり継続し、さらに南信州の民俗芸能を広く活かした取組を展開していくために、必要な事項等について継続した検討が求められます。

《必要となる取組》

【協議会活動継続のための独自財源の確保】 重点項目
今回立ち上がった協議会が、ここに示した各種取組を継続して展開していくには、事業経費が必要となります。活動が軌道に乗るまでの間(平成29年度まで)は、長野県からの助成による活動が可能となっていますが、それ以降の活動経費については、白紙の状況です。方向性7で掲げた「南信州民俗芸能パートナー企業制度(仮称)」による企業からの資金援助や、一般からの寄付の受入、参加団体からの負担金徴収など独自財源の確保策の検討が必要となります。

【商標等の活用】
独自財源の確保策として、先進事例で紹介したとおり壬生の花田植えが導入している商標による収入確保も有力な手段です。地域の合意形成を得た上で、協議会が南信州の民俗芸能に関しする商標登録を行い、これを活用する企業等から利用料を徴収する仕組を構築できれば、一定の財源を得ることが可能であり、検討する価値は大きいものと考えます。方向性1で掲げたキャッチフレーズやシンボルマークの活用と繋げることで、より大きな効果が期待できます。

地域一丸となり協議会や各地区等が今後取り組むべき方向性について一覧で整理すると次表のとおりです。なお、各方向性における必要となる取組については、主な事業主体についても整理しました。協議会として重点項目を中心に精力的な事業展開を図ると共に、各地区等においても地域の実情に応じて可能な取組を推進していくことが求められます。

南信州全体で推進すべき9つの方向性